CO2センサボードの紹介

2021年10月に、スイッチサイエンスマーケットプレイス(委託商品)で販売を開始した、”M5StickC Proto Hat向けCO2センサボード” について、販売に至るまでの経緯や実際の活動についてまとめてみました。

M5StickC Proto Hat向けCO2センサボード

作ろうとしたきっかけ

2020年4月頃から在宅時間が増え、部屋を閉め切ることも多くなり、これまで以上に CO2濃度 が気になっていました。以前から CO2濃度は市販の製品で計測できていたものの、他の部屋も含め気軽に使え、かつ低コスト、自分達が欲しい機能を持った CO2モニター が作れないかと、色々と調べ始めました。
まずは、どんな CO2モニター が欲しいかを整理してみました。コンパクトで測定データはその場で確認が可能なこと、スマホでいつでも確認が可能なこと、内蔵バッテリーで長時間の計測が可能なことなど。
また、CO2モニター を作る上で、市販のマイコンボードやモジュールと上手く組み合わせられるような CO2センサボード であれば、自分達だけでなく同じように使いたい需要があるのではないかと考え、ボードの販売も含めて検討を始めました。

実現方法の検討

今回の要求を満たせるようなマイコンボードや CO2センサ について色々と調べた結果、M5Stack製の M5StickC や CoreInk と Sensirion製 の CO2センサ SCD4x との組み合わせが一番良さそうとの結論となりました。M5StickC/CoreInk のディスプレイ、バッテリー、サイズについては以下の表にまとめました。

製品名ディスプレイバッテリーサイズ
M5StickC0.96″ 80×160 TFT80 mAh48.2×25.5×13.7mm
M5StickC Plus1.14″ 135×240 TFT120 mAh48.2×25.5×13.7mm
CoreInk1.54″ 200×200 e-Ink390 mAh56x40x16mm
M5StickC/M5StickC Plus/CoreInk 比較

SCD4x(SCD40/SCD41) は Sensirion 独自の PASens技術 で NDIR方式 と比べ約1cm3と小型でより低コストが特徴。
そして、M5StickC/CoreInk と組み合わせる場合、センサを収めるケースをどうするか色々と調べる中で、どちらも共通の 8ピンの HAT拡張ポートがあり、そこに接続可能な M5StickC Proto Hat(写真下側) というプロトタイプ開発用の拡張モジュールの基板を、SCD4x の基板と置き換えるようにすれば良いのではと考えました。
他に Proto 製品として、M5Stack用ミニプロトボードユニット(写真上側)もあり、Grove互換で M5Stack Basic など幅広く接続が可能にはなりますが、SCD4x が上手く収まらないこともあり、M5StickC/CoreInk との組み合わせでよりコンパクトに一体化が可能な M5StickC Proto Hat を使うことにしました。

上側:Mini Proto Unit / 下側: M5StickC Proto Hat
分解写真

まずは、M5StickC/CoreInk と SCD4x の組み合わせでの動作を試すため、M5StickC/CoreInk と SCD4x評価キット を購入して試してみることに。早速 M5StickC で動作を確認。この時の動作確認詳細については こちら を参照。
この段階では、主に SCD4x の扱い方について、特に省電力やキャリブレーションの方法などについて、データシートなどを調べながら動作確認を行いました。

Sensirion製のSCD4x評価キットでの動作確認

製品化までの流れ

  1. 製品化検討 (2021/4~)
  2. 基板設計・製造 (2021/8~10)
  3. サンプルプログラムの開発 (2021/8~10)
  4. 委託販売準備 (2021/9~10)
  5. 販売・サポート (2021/10~)

1.製品化検討 (2021/4~)

今回、製品化は初めてとのこともあり、部品の調達・基板の製造・部品実装、そして販売価格をどうするかについて、検討を行いました。
使用する SCD4x については、主にCO2濃度の測定精度の違いで SCD41 と SCD40 のラインナップがあり、今回は価格と精度の差や販売価格などを検討した上で、より低コストの SCD40 を使用することにしました。また 2021年4月の時点で、既に半導体需要増の影響による価格高騰や納期悪化の影響も出ていたこともあり、SCD40 の納期や価格については頻繁に確認するようにしていました。

2.基板設計・製造 (2021/8~10)

基板の設計は KiCAD を使いました。SCD40 の電源に LDO を使うかどうか迷いましたが、 SCD4x評価キットを使って実験した所、計測結果にさほど大きな差がなかったので LDO無しの設計にしました。今回の基板は M5StickC Proto Hat の基板と同じサイズに合わせ、100mm角の基板に9枚面付けで設計。ちなみにM5StickC Proto Hat の寸法はノギスで実測しました。
基板の製造は中国深センの Seeed Fusion のプリント基板・製造サービス を利用。 ガーバーファイルをアップロードして発注、100mm角基板10枚、板厚は0.8mm、送料込みで約8,000円。発注から製造完了まで4日、発送から実際に受け取るまでが4日、計8日でした。

届いたCO2センサ基板

部品については、SCD40 の単価と納期が最も良かった Mouser で購入。SCD40 の他、チップ抵抗とチップコンデンサも購入、SCD40 は発注した 6/14時点で在庫がなく出荷予定が 8/5 でしたが、実際には少し早まって 7/20 に発送されました。特に SCD40 は単価もそれなりにするので、納期や価格の動きには注意しつつ、販売価格をどうするか、どのくらい在庫を持つかも含めて検討を進めました。

部品実装については、SCD40 のパッケージが LGA であることや、L字型のピンヘッダを正確に取り付ける必要がある点、それなりの数量であるため国内の実装サービスである マルツ基板実装サービス にお願いしました。実装サービスを利用するのは初めてで、色々と分からないことが多かったのですが、メールベースでの丁寧なサポートで無事実装も完了しました。

3.サンプルプログラムの開発 (2021/8~10)

今回販売する製品としては基板そのものになりますが、実際に使えるプログラムも含めて提供することは重要と考え、自分達が欲しい最低限の機能を盛り込んだ CO2モニター のプログラムもサンプルとして公開することにしました。
M5StickC/M5StickC Plus/CoreInk に対応し、温度/湿度/CO2濃度の表示と、長期間の変化を確認するために IoTクラウドサービス Ambient へのアップロード機能、CoreInk については内蔵バッテリーのみで10分間隔での Ambient へのアップロードで2週間の持ちを目標にして開発。複数セットで約2か月間動作を確認しながら改善し、目標の2週間のバッテリー持ちを確認することができました。
そして、サンプルプログラムについては、GitHub で公開することにしました。
M5StickC Proto Hat向けCO2センサボード サンプルプログラム(GitHub)

M5StickC/M5StickC Plus/CoreInk での動作確認の様子
CoreInk で Ambient に 10分間隔でデータをアップロードした際の結果、約2週間持つことを確認 (2021/10)

4.委託販売準備 (2021/9~10)

今回製品をどこで販売するか、販売手数料や販売形態などを検討した結果、スイッチサイエンスマーケットプレイス(個人向け)にお願いすることにしました。特に M5Stack製品 が充実している点、小型の製品だと 3,000円以上で送料無料となる点は重要でした。
委託販売は初めてでしたが、製品紹介ページの作り方から販売の流れについて、メールベースで丁寧に対応をいただいて、無事製品発売に向けた準備ができました。
販売する上では、ボードを入れるパッケージも必要で(当たり前ですが)、ボードを静電防止パッケージに入れ、購入いただいた方へのメッセージと一緒に小分け袋入れることにしました。
今回発売に向けて準備を進める中で、普段当たり前に購入している様々な製品も、製品そのものだけでなくパッケージも含めて色々と考えられているということに気付かされました。

今回販売価格を決める上では、既に発売している各社のブレイクアウトボードについても調べたり、製造から販売にかかるコスト、最後はもし自分達だったらどのくらいの価格までであれば買いたいかといったところを考え、6,400円とすることにしました。

5.販売・サポート (2021/10~)

ようやく販売の準備が整い、スイッチサイエンスさんでの製品ページが公開された時は、初めて自分達の作ったものが販売されるということもあり、達成感があったのを覚えています。
一方、本当に売れるのかといった不安もありました。販売開始から 5日間は 1個も売れず不安になりましたが、6日目に初めて売れた時はなかなか嬉しかったのを覚えています。
今回、製品として販売することを決めてから、開発・販売・サポートまでの一連のプロセスを通し、製品が売れ誰かに使ってもらえることは一番嬉しいことですが、特に製品として販売する上で必要なこと(価格決め、パッケージなど)について考えることはこれまで経験がなく、得られることが多くありました。

その後、製品に関する問い合わせもいただきつつ、予想していた以上のペースで売れ、無事初回分が完売しました。その後在庫を追加している状況ですが、SCD40 の納期が読めなかったり、価格も少しずつ上がっている状況が続いています。
今後は、長期継続販売できるように、またできるだけ在庫を切らさないようにするにはどうすれば良いかを考えたり、サンプルプログラムの各種設定機能の追加や、より見易い表示なども考えています。
また、CO2濃度などセンサからのデータを感覚的に光や音で伝えたり、別のセンサを搭載したボードの検討も進めて行く予定です。

CO2濃度を感覚的に光で伝えるオブジェ

最後に、もし CO2センサボード に興味を持っていただけたら、是非以下のスイッチサイエンスマーケットプレイス(委託商品)の製品ページもご覧いただければと思います。
在庫を切らさないようにと書いておきながら、この記事を公開した時点(1/31)で在庫を切らせてしまっている状況ですが、2月中旬の追加を目標に準備を進めています!⇒ 2/10に在庫追加しました!
https://www.switch-science.com/catalog/7530/

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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