ピコプロジェクターを使った空間演出システムの紹介~パンチルト対応ダクトレール取付・壁面投写型

はじめに

2019年から小型のプロジェクター(以下ピコプロジェクター)を使った様々な映像表現や空間演出的なものを作ってSNSに投稿していたものの、どういったシステム構成で、制作過程など含めまとめたことがなかったので、今回整理も兼ねてまとめてみることに。

今回紹介するのは、レストランなど店舗で電球などの照明を取り付けるダクト(ライティング)レールに取り付け、パンチルトカメラのようにプロジェクターの投写方向を変えられるタイプのプロジェクター。

このパンチルト型プロジェクターで最近制作したものについて、実際に動かしている様子は以下の通り。
コンテンツとしては、映像右手にあるステージでのパフォーマーやお客さんの様子に合わせて、ピエロのキャラクターが拍手をしたり、ダンスをしたり、歩いたりしてお客さんと一緒に会場を盛り上げるような内容。

使用しているプロジェクターはUltimems(台湾)のMEMSレーザー走査型の小型プロジェクター。一般的なプロジェクターと比べると34lmとかなり暗いものの、小型で省電力、そしてフォーカス合わせが不要で、コントラストが高いのが特徴。これまで色々なコンテンツを試した中で、背景を黒くしてキャラクターのみ表示することで、現実世界に溶け込んでキャラクターをリアルに表現するような使い方が適していることが分かった。
よりリアルで没入感があるという点では、ヘッドマウントディスプレイがあるものの、すぐにVR酔いしてしまうこともあり、何かデバイスを身に着けることなく、現実世界でもっと身近にデジタルコンテンツを融合し楽しむことができないかと考えたのも、作ろうとしたきっかけの一つ。

このプロジェクターは投写距離を長くするとかなり暗くなるため、間接照明下で最大でも3mくらいまでの距離でパンチルトカメラのように左右・上下に動くようにして投写エリアを広げることができれば、部屋全体をゲーム空間にするような使い方などより表現の幅も広がると考え、今回のパンチルト型を作ることに。
なお、このプロジェクターは解像度が1280×720あるものの、精細感がそれほどないため、プレゼンなど細かい文字が中心のコンテンツにはあまり向いていない。

以下、これまで実際に作って試してみたものや、どういった使い方が出来そうかについてまとめてみた。

タイプ・取付場所投写面使用例
天井取付・壁面投写型
パンチルト対応
・ダクトレール
←今回の内容
・シーリングライト
・電球ソケット
壁面、床、テーブルなどレストラン、ホテル、パーソナル空間などでの空間演出・ゲーム
例1)レストランでのイベントで、キャラクターがお客さんと一緒に盛り上げる演出
照明組込型
パンチルト対応
・テーブルランプ(円柱)
・ペンダントライト(球体)
照明のシェードレストラン、ホテル、パーソナル空間などでの空間演出・ゲーム
グラス投写型
・ロボットアームと組み合わせ近未来感を出すような演出含む
グラス、グラス近くの透過スクリーンバー、レストラン、ホテル、パーソナル空間などでの空間演出
例1)バーでロボットバーテンダーがカクテルを作り、そのカクテルに映像を投写
例2)グラスに投写されたキャラクターと飲みながら会話(AIキャラクター、遠隔地の友達)
懐中電灯型
・バッテリー内蔵で手持ち可能
壁面、床、テーブルなど室内・屋外での体験型ゲーム、美術館・博物館でのガイドなど
例1)絵画や展示物に投写し、作品の世界観を拡張
例2)GPSと組み合わせ、街をゲーム空間に

システム構成

本システムの構成は以下の通り。

本システムの主なパーツは以下の通りで、選定の際に考慮した点は以下の通り。トータル費用は10万円ほど。電源やケーブル含む全パーツのリストは後日公開予定。
特に映像コンテンツはUnreal Engineを使用していたため、これまでゲーミングノートPC上で動かし映像は無線での伝送を行っていたところを、ミニPCでもある程度動作(720pでキャラクターのみで30fps以上)することが確認でき、高性能な外部PC不要でコンパクトに実現できたのが大きなポイント。

  • ダクトレールに取り付けるため、トータルの重量は1kg程度とすること
    ※ダクトレールフィクサーに固定するパーツはトータル800g程度を目標
  • 高い位置に取り付けるため、電源のオンオフ、制御が遠隔で行えること
分類
用途
メーカー名
製品名(型番)
販売先
価格(2025/3/9時点)
仕様・説明
プロジェクター
映像投写用
Ultimems Inc.
MEMS スキャニング プロジェクション モジュール [HD309D1-C1]
KSY
51,700円 x 1

※HD ピコ レーザー プロジェクター 自作キット for Pi [HD301D1]の方が安く、少し暗いが代用可能ではあるものの、在庫なしの状況(販売終了と思われる)
解像度: 1280×720
明るさ: 34lm
コントラスト: 10,000:1
明るくは無いものの、レーザー走査型のためどこにでもフォーカスが合うのが最大の特徴
ミニPC
映像生成用
GMKtec NucBox G5Amazon
20,380円 x 1
CPU: Intel N97
メモリ: 12GB
SSD: 256GB
サイズ: 72x72x44.5mm
重量: 166g
サーボモーター
パンチルト用
FEETECH
STS3215
秋月電子
2,980円 x 2
シリアルバスサーボ
6~7.4V/360°/19kg
重量: 55g x 2 = 110g
サーボモーター
制御用
FEETECH
サーボ用インターフェイスボード FE-URT-1
秋月電子
1,420円 x 1
FEETECHシリアルバスサーボ用インターフェイスボード
サーボモーター
制御用マイコン
パンチルト用
M5Stack
M5StickC
スイッチサイエンス
2,816円 x 1
PCから制御基板経由でのサーボモーター制御用
M5StickCは販売終了のため、M5StickC Plusでも対応可能
3Dプリントパーツ
各パーツ接続・固定用
ダクトレールフィクサーに固定するためのベース、PC固定用、サーボ1と2の接続用、プロジェクター固定用の4パーツを3Dプリンターで作成PLAフィラメント
4パーツで、150g程度、400円程度
今回Anycubic Kobra 2 Proと+Anycubic 高速PLAフィラメント(ブラック)を使用
ダクトレールフィクサー
プロジェクターやPCをダクトレールに取り付けるため
トキナー
ダクトレールフィクサー DR-11
Amazon
6,800円 x 1

※販売終了、ダクトレール用のフィクサー、耐荷重1kgのものであれば代用可能
ダクトレールにカメラや小型プロジェクターを1/4カメラネジで取り付ける器具
長さ: 最小時341mm、最大時455mm
耐荷重: 1kg

開発内容

今回のコンテンツは、レストラン等のイベントを想定し、ピエロがお客さんと一緒に拍手をしたり、ダンスをしたり、歩き回ったりして会場を盛り上げる演出の内容とした。

今回のシステムの主な機能は以下の通り。

  • キャラクターの操作は任意のキーで以下アニメーションが行えること
    アニメーション:歩く、座る、拍手(立った状態・座った状態)、ダンス、お辞儀
  • 電源オンからキャラクターの操作可能な状態になるまで自動で行えること

ハードウェア

開発内容は以下の通り。詳細については別途紹介予定。

  • パンチルト用3Dプリントパーツのモデリング
    以下4つのパーツを設計
    • ダクトレールフィクサーに固定するためのベース
    • ベースへのPC固定用
    • サーボ1と2の接続用
    • サーボ2へのプロジェクター固定用
  • 3Dプリントパーツのプリント
    Anycubic Kobra 2 Proと+Anycubic 高速PLAフィラメント(ブラック)を使用

ソフトウェア

開発内容は以下の通り。開発環境はWindows 11 Pro上で以下ツールを使用。

  • 映像コンテンツ生成:Unreal Engine、Tripo AI、Reallusion ActorCore AccuRIG/Motion
  • サーボモーター制御:M5StickC

映像コンテンツ生成

まず、映像コンテンツ生成については、Unreal Engineを使用、3DモデルとアニメーションについてはWebサービス含め複数のツールを使用。
各ツールでの開発内容については今回は概要のみ。詳細については別途紹介予定。

開発対象使用ツール開発内容
3DモデルTripo AIピエロのキャラクターの3Dモデルを生成。テキストからAIで3Dモデルの生成可能なサービスで、今回初めて使用
思っていた以上に生成された3Dモデルの品質が良く、今後も使ってみたいサービス
3Dモデル(リギング)Reallusion ActorCore AccuRIGTripo AIで生成した3Dモデルのリギングを行うアプリケーション
自動では上手くリギングされなかったので、手動で調整
3Dモデル(モーション)Reallusion ActoreCore Motion今回使用する各種アニメーションについて、今回の利用シーンにあったものをいくつかピックアップして購入
リギング後の3Dモデルをアップロードし購入したモーションを適用し、Unreal Engine用のアニメーションとしてダウンロード
映像コンテンツ生成Epic Games Unreal Engine 5.5.3プロジェクトは以下設定で作成
[ゲーム]->[サードパーソン]でブループリントを指定、
ターゲットプラットフォーム:Desktop
品質プリセット:Scalable
スターターコンテンツ:チェックなし
ActorCore Motionでモーションを適用したピエロの3Dモデルを取り込み、キャラクターを動かすための空間を作成、キャラクターのみ表示されるよう照明などを設定
特定のキーでアニメーションを行うようステートマシンを作成
キャラクターの位置に応じて、サーボモーターを動かすための制御情報をOSC Clientプラグインでプログラム(Blueprint)を作成

サーボモーター制御

開発対象使用ツール開発内容
サーボモーター制御
M5StickCのプログラム
Arduino IDE 2.3.2PCからのキャラクターの位置に応じたサーボモーター制御データのOSC Serverでの受信、受信データに基づく2つのサーボの制御

まとめ・今後について

今回ピエロのキャラクターでの演出について、設置や投写範囲の調整には非常に時間が掛かったものの、4時間ほどの連続稼働でPCの再起動が必要になったり映像が写らないといったトラブルもなく無事終えたのは良かったところ。

ピエロのキャラクター操作については、パフォーマーやお客さんの状況に応じたタイミングで行う必要があったため手動操作にしていたものの、例えばカメラからの映像をAIにより状況に応じたアニメーションを行うなど、ある程度の自動化は目指してみたいところ。
また、ピエロのアニメーションについては今回あまり時間がなかったため購入したものを使用、今後は手元にあるmocopiといったモーションキャプチャーデバイスやモーション作成ツールなども活用してみたいところ。

また、今回システムは1セットのみでしたが、複数セットを連携させより広いエリアでキャラクターが動き回ったり、ペンダントライト型やテーブルランプ型も組み合わせ連携させたりして面白いコンテンツが作れないか、今後も色々と試して行きたい。

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