はじめに
最初に、本レビューは一般的なミニPCのレビューと異なり、かなり特殊な用途を前提としているため、レビュー観点や内容としてあまり参考にならない場合がある点は注意ください。
2023年9月に、MINISFORUMのMercury Series EM680というミニPCを購入。2024年6月までの9か月ほど使って色々と試したことやベンチマーク結果をまとめてみた。既に後継機種のEM780が発売されているものの、2024/10/3時点では公式ストアやAmazonでは販売しておらず、EM680のみ公式ストアで販売している状況。
そもそもの購入理由としては、ものづくりの活動でピコプロジェクターを使った各種デモを展示する際に重量級のゲーミングノートPCを使用しており、代わりにもっと気軽に持ち運べるミニPCが使えないかと色々と調べる中でEM680を知り購入。
購入の決め手は、一般的なミニPC(12x12cm程度)と比べても80x80x45mmとかなり小型な点と、AAAゲームが1080pで40~60FPSで動作するiGPU Radeon™ 680Mを内蔵したAMD Ryzen™ 7 6800Uを搭載している点が購入の理由。各種デモのコンテンツはUnreal Engine 5で開発していたので、内蔵GPU(iGPU)でどの程度フレームレート(fps)が出るかも気になっていたところ。
以下は実際に届いて、重さを測っている様子。実測で230gと軽量で、手のひらに収まる小ささはなかなか魅力的。

主な仕様
購入当時のEM680のラインナップとしてはメモリ/ストレージの組み合わせが、16GB/512GBまたは32GB/1TBの2種類で、今回は32GB/1TBを購入。価格は2023/9/12にAmazonで75,184円で購入。2024/10/3時点ではMINISFORUM Japan公式ストアで32GB/512GBの組み合わせのみ。
主な仕様について、EM780との比較も含め公式の製品ページより抜粋(一部加筆修正)してみた。大きな違いはCPU(iGPU含む)の違いと、EM780にはUSB Type-Cの有線LANアダプタが付属する点。
| Mercury Series | EM680 | EM780 |
|---|---|---|
| CPU | AMD Ryzen™ 7 6800U (8コア/16スレッド、L3キャッシュ合計16MB、最大ブースト・クロック4.7GHz) | AMD Ryzen™ 7 7840U (8コア/16スレッド、L3キャッシュ合計16MB、最大ブースト・クロック5.1GHz) |
| グラフィック(iGPU) | Radeon™ 680M (クロック周波数2200MHz) | Radeon™ 780M (クロック周波数2700MHz) |
| メモリ | LPDDR5‐6400MHz (OnBoard, 16GB or 32GB) | LPDDR5‐6400MHz (OnBoard, 32GB) |
| ストレージ | M.2 2230 PCIe4.0 SSD ×1 (512GB or 1TB) TF カート スロット x1 | ← |
| 電源 | 65W GaN Type-C (電源アダプター含む) | ← |
| OS | Windows 11 Pro ※2024/10/3時点ではProかどうかの記載が無いためHomeの可能性大 | Windows 11 Home |
| 本体サイズ | 80x80x43mm | ← |
| ペリフェラルインターフェイス | 3xUSB3.2 Type-A (Gen2) 2xUSB4 Type-C (Alt PD) 1xHDMI 2.1 1×3.5mmコンボジャック 1xTFカードスロット 1xDMIC 1xClear CMOS | ← |
使用感
Ryzen™ 7 6800Uを搭載していることもあり、インターネットや動画再生、オフィス系など日常的な用途としては十分な性能。負荷をかけた状態ではファンの音は大きくなるものの、デスクトップの上に置いた状態でもそこまで気にならない程度。
本体が小さいので、接続するケーブルは気になるところ。USB Type-C DP Altモード、PD65W以上に対応のモニター、ワイヤレスキーボード・マウスを使えばUSB Type-Cケーブル1本で済むので見た目もすっきりとなる。さらに、VESAマウント取付プレート等は付属していないので、3Dプリンターで取付ブラケットを作り、モニターに取り付けてみた。ミニPCの中にはVESAマウントプレートが付属している機種もあるので、この小ささであれば標準で付属して欲しいところ。
また、別の部屋に持って行ったり、ものづくり活動で小型モニターと一緒に外出先に持って行くのも負担にならないのは良いところ。
ベンチマーク結果
購入時と公式のサポートサイトからダウンロード可能なSpecial EditionのBIOSで各種ベンチマーク結果をまとめてみた。結果としてはSpecial Editionは100Wの電源が必要となるものの、GPU性能が20%程度アップすることを確認。
BIOSの設定については、GPUメモリが2GBを含め、デフォルトのまま。
- CINEBENCH R23
- 3DMark: Fire Strike/Time Spy
- CrystalDiskMark 8.0.4
CINEBENCH R23
CPU(Multi Core)については購入時のBIOSに比べSpecial Editionは+3%程度とあまり大きな差は見られず。CPU(Single Core)については未確認。
| CPU (Multi/Single) | 購入時のBIOS(V0.16?) | Bios V2.17 Special Edition (購入時のBIOSとの比較) |
|---|---|---|
| CPU (Multi Core) | 9,750 | 10,083 (+3%) |
3DMark
System information
- GPU: AMD Radeon 680M
- CPU: AMD Ryzen 7 6800U
Fire Strike
購入時のBIOS(V0.16?)については未確認。
| Score | 購入時のBIOS(V0.16)? | Bios V2.17 Special Edition |
|---|---|---|
| Fire Strike Score | – | 5,684 |
| Graphics score | – | 6,322 |
| Physics score | – | 20,696 |
| Combined score | – | 1,999 |
Time Spy
こちらは、購入時のBIOSに比べ、Special EditionのScoreの方が24%高い結果となった。
| Score | 購入時のBIOS(V0.16?) | Bios V2.17 Special Edition (購入時のBIOSとの比較) |
|---|---|---|
| Time Spy Score | 1,993 | 2,465 (+24%) |
| Graphics score | 1,787 | 2,205 (+23%) |
| CPU score | 5,764 | 7,453 (+29%) |
以下、フレームレート・CPU/GPUの温度・使用率・動作クロックの推移。
温度については上から2番目のグラフで、CPU(GPU)は最初に90℃まで上がりその後70℃から80℃前後で推移、最後のCPU test時は80℃を85℃近くまで上昇。
GPUクロックは一番下のグラフのピンク色が該当、ほぼ1.5GHzくらいで推移し、グラフィックステスト2の前後で2GHzを超える程度と低め。

CrystalDiskMark 8.0.4

色々と試したこと
モバイルバッテリーでの動作
今回試したかったことの1つとして、ピコプロジェクターと組み合わせ、モバイルバッテリー駆動で、懐中電灯のように様々な場所にコンテンツ投写が可能なガジェットが作れないかといったところ。
まず試したのはAnker Prime Power Bank(12000mAh合計130W出力)の単ポートで最大65Wに対応したモバイルバッテリー。この写真は、Anker Prime Power Bank(12000mAh)での動作を試している時の様子。改めてモバイルバッテリーや周辺機器と比較して本体の小ささが分かる。
ただ、65W対応ではあるものの、起動後のログイン画面で落ちてしまう状況が頻繁に発生したため、最終的には諦めることに。

続いて、単ポートで100Wに対応したAnker Prime Power Bank(20000mAh合計200W出力)を試してみる。こちらは問題なく動作。ただサイズ・重量が12000mAh版が約135x55x33mm、約360gに比べ20000mAhは127x55x50mm、約540gと厚み・重量が180g増のため手持ちするには厳しいところ。
Bios V2.17 Special Edition
EM680は標準では付属の電源アダプターも65W対応で、一般的なPD給電対応のモニターにも対応可能なように65Wに抑えられているが、公式のサポートページのDownload-BIOS & FirmwareからCPU/GPU性能を上げるためのBIOS(EM680 Bios V2.17 Special Edition)のダウンロードが可能。以下ダウンロードページにある注釈の通り、このBIOSを適用した場合付属の65W PDアダプターでは電源容量が足りなくなるため、別途100W PDアダプターが必要となる点は注意が必要。
また、単ポートで100Wに対応したAnker Prime Power Bank(20000mAh合計200W出力)も問題なく動作することを確認。
“Please replace the 100W PD adapter after brushing the special edition BIOS by yourself. 65W PD adapter is NOT supported for display line connection after brushing the special edition BIOS. If you are not ready with a 100W PD adapter, please do not brush this BIOS, otherwise Minisforum will not be responsible for any issue may happen.”
更新はBIOS更新用のexeファイルをダウンロードして、実行・再起動するだけ。100W PDアダプターは、Anker Prime Wall Charger(100W, 3 ports, GaN)での動作を確認。BIOS更新中は電源がオフにならないよう十分注意が必要。
まとめ
EM680はミニPCの中でもかなり小型で性能的にも他に同じような製品が無いため、より小型でかつ高性能なPCを探しているのであればかなり魅力的な製品。
元々の購入目的だった、ピコプロジェクターを使ったUnreal Engine 5のコンテンツ(Stack O Botをカスタマイズ)は20fps程度でデモ用途としてはギリギリのところ。
2024/2/25に新潟県長岡市で開催された「メイカーズながおかまつり」では重量級のゲーミングノートPCを使ったテーブルランプ型のピコプロジェクターによるデモの他、EM680でUnreal Engine 5のコンテンツを動かし、映像を無線で懐中電灯型のプロジェクターで投写するデモを無事展示出来たので購入の目的には近付いたのではないかと思う。
プロジェクトをデスクトップ向けではなくモバイル向けにしたり、Unreal Engine 4ベースとすればfpsはかなり改善可能と思われる。
ただ、手持ちにする上では、大型のモバイルバッテリー含め全てのパーツを含めると総重量が1kgを超えるためなかなか難しいところ。
2024/10/3時点でEM780が販売されていない理由は分からないものの、今後同じサイズ感でよりiGPU性能やより電力効率の高いプロセッサを搭載したモデルが出て来ることを期待したいところ。

